③調エネ | 脱炭素実現の最終ステップ、需要と供給の一致に向けて

エネルギー
この記事は約6分で読めます。

みなさん、こんにちは。

これまで、脱炭素実現に向けた①省エネ②再エネの役割について説明をしてきました。使うエネルギーの量を減らしつつ、これまで化石燃料で賄っていた分を再エネで置き換えてCO2排出を極限まで減らすという取り組みです。しかし、これだけでは不十分であり、最終ステップとして③調エネが必要です。まずは、その理由について触れたいと思います。

なぜ脱炭素には調エネが必要なのか

調エネの概念

調エネが必要な理由の概念は下図の通りです。先ず、最初の図で示す通り省エネで使用するエネルギーを減らし、次に真ん中の図の通り既存の化石燃料で賄っているエネルギーを再エネで置き換えます。しかし、再エネの主力である太陽光や風力発電は天候任せであるため、需要(真ん中の図の青線)と供給(真ん中の図の赤線:再エネの発電)は一致しません。この際、再エネが余る際はまだしも、足りない場合は既存の化石燃料で補わざるを得なくなり、完全な脱炭素は実現できません。そこで、このギャップを埋めるための調エネが必要になるのです(最後の図)。

現在の電源調整

では、現在の電源構成はどのようになっているのでしょうか。最初の図で示す通り、大きく分けるとベース電源と調整電源に分かれています。ベース電源は原子力・水力・石炭火力等のように発電コストが安いですが、いずれも調整が苦手です。一方で、調整電源は発電コストがやや高いものの、出力の調整がしやすい電源です。このような調整が必要になるのは、電力は「需要=供給」となるようにしないと、最悪大規模停電になることもあるからです(再エネの記事でご説明した通りです)。ここに大量の再エネが加わるとどのようになるのでしょうか?そのイメージが次の図です。主力の再エネ電源である太陽光や風力はお天気任せなので、既存の調整電源のような調整を行えません。よって、再エネが足りない時間帯は、その他の調整電源で賄うしかありません。また、以下の図は「1日の電力需要変動に合わせた調整」のイメージですが、実際には「季節間変動」もあり、月をまたいだ調整が必要になります。日間変動の調整であれば蓄電池も有効ですが、長期間の変動対策にはたくさんエネルギーを蓄えられるガスや液体燃料での備蓄が便利です。

系統枠(送電線)の制限について

先ほどは電力の需要と供給の視点で調整の必要性をご説明しましたが、他にも送電線の問題があります。再エネの記事でも触れましたが、送電線はいくらでも電気を流せる訳ではなく、容量に限界があります。送電線を道路に例えると分かりやすいのですが、以下の図の通り多くの再エネが発電している時には他の再エネが入り込む余地がなくなります(つまり、発電した分を送電線に流せなくなるということです)。

これまでは、この送電線は各発電所に申し込み順に割り当てられていました。道路に例えると、各発電所の専用道路のような形になっており、仮に車が走っていなかった(発電していなかった)としても、その道路は他の人は使えないルールでした。しかしながら、それでは道路が十分に活用できず再エネを増やすことができないことから、「車が混雑していない時は道路を使っても良いよ」という制度が導入されました(これを、ノンファーム接続と言います)。それ自体は、送電線の有効活用の面で良い事なのですが、混雑した際には発電した電気を流せなくなります。今はまだ、さほど道路は混雑しておりませんが、今後再エネが増加した際には図のような混雑が頻繁に発生するおそれがあります。この際に、ただ再エネ発電を止める(捨てる)だけではもったいないので、調エネの必要性が出てきます(例えば、混雑している時間帯は蓄電池に電気を貯めて、空いている時間帯に流すということも考えられます)。

調エネの種類

それでは、調エネにはどのようなものがあるでしょうか。ここでは、「需要を調整する」「貯めて電気に戻す」「別のエネルギー源に変換」という3種類についてご説明したいと思います。

需要を調整する

先に記載しました通り、調エネの目的は需要(上図のオレンジ線)と供給(上図の緑線)を一致させることです。ここでご説明するのは、オレンジ線をを調整して緑線に近づける方法です。例えば、再エネの電気が足りない際は「一時的にエアコンの設定を弱める」「工場の操業を停止する」等の方法で電力需要を減らし、逆に再エネが余っている際は「一時的にエアコンの設定を強めて部屋を余分に冷やしておく・暖めておく」「工場の操業を行う(時間を調整する)」等の方法で電力需要を高めます。通常、電力を使う人や会社にこのような調整をお願いする場合、一定の報酬を支払います。これをデマンドレスポンス(Demand Response)と言います(短くDRと言ったりします)。また、1件1件の調整は小さいですが、何千・何万件と束ねると大きな1つの発電所のような効果を発現します。このことから、このような調整をバーチャルパワープラント(Virtual Power Plant)と言います(短くVPPと言われます)。

貯めて電気に戻す

次は電源側を調整する方法で、電気が余っている際に何らかの形で電気を貯めておき、足りない時に電気戻すというやり方です。代表的な手法としては、蓄電池や揚水発電があります。蓄電池は電気を化学的なエネルギーに変換して貯めますし、揚水発電は水の位置エネルギーとして蓄えます。この2つは実績のある調整方法で、既に電源の中で活躍しています。また、1日の変動分を調整する(昼の太陽光発電の余りを夜に使う等)には非常に有効ですが、大量のエネルギーを蓄えることが苦手なことから、季節間変動を調整するのには向いていない方法であるとも言えます。

別のエネルギー源に変換

最後の方法も電源側を調整するものですが、余った電気を気体燃料である水素に変換するものです。水電解装置というものを使い、余った電気で水を電気分解して水素(と酸素)を発生させます(2H2O→2H2+O2)。また、この水素を二酸化炭素と反応させて天然ガスの成分であるメタンを発生させる手法(メタネーション)や窒素と反応させてアンモニアを発生させて、それぞれ燃料として利用する方法などが検討されています。これらの燃料は、発電所で使用し再び電気にすることもできますし、車や工場など燃料を使わざるを得ない分野の脱炭素燃料としても期待されています。また、先ほどご紹介した蓄電池や揚水発電は季節間の変動を調整するのには向いていないのに対し、これらのガス燃料は備蓄が可能なので長期間の保存が行える点もメリットであると言えます。これらの技術は、コスト等の問題があり未だ普及していませんが、このようなメリットがあることから今後技術開発が進められていくことが期待されています。

まとめ

さて、いかがでしたでしょうか。ここまでご紹介した通り、主力の再エネ電源である太陽光や風力発電はお天気任せであることから需要と供給を一致させることが難しく、どうしても調エネが必要になってきます。その方法としては、DRで需要を調整する・蓄電池や揚水発電で電気を貯めて必要な時に使う・余った電気を水素等の別のエネルギー源に変換して使う方法などがあります。何れの技術も発展途上ではありますが、今後の技術開発や普及が期待されています。これで、調エネのお話を終わります。

参考リンク・資料

  1. 再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは「火力発電」!?|再生可能エネルギー・新エネルギー|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

免責事項

・本サイトの内容は、予告なしに変更・追加・削除等をする場合があります。
・本サイトおよび管理人は、本サイトの利用者が、本サイトの内容に依拠し、または本サイトの情報を信頼して行った行動等により被った、いかなる生命、身体、財産上の損失又は損害についても責任を負いかねます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました