火力発電所は都合の良い電源? | 実は調エネの名人

エネルギー
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みなさん、こんにちは

昨今、脱炭素への動きが加速する中、発電の際に二酸化炭素を排出する火力発電への視線が厳しくなっています。では、火力発電はそんなに悪いものなのでしょうか?また、火力発電が無くなったら世の中はどうなるのでしょうか。考えてみたいと思います。

再エネが増えても火力発電所は必要?

これまでの電源構成

以前の調エネの記事で記載した通り、現在の電源は発電コストが安いベース電源と、調整電源で成り立っており、電力の需要に合わせて発電を行っています。これは、電力は需要(我々が使う電気の量)と供給(発電量)をピッタリ合わせないといけないからです。

再エネが増えたら火力発電所は不要?

さて、それでは脱炭素に向かい再エネ電源が大量に導入されたらどうなるでしょうか。再エネ電源は種類がいくつかありますが、水力・地熱・バイオマスのような非変動型は立地や導入量に制限があり、どうしても太陽光や風力のような変動型再エネがメインになります。これら変動型再エネ電源はお天気任せになり変動するので、調整するための電源が必要になりますが、現在は火力や揚水発電に頼っている状況です。例えば、台風が来た際など、太陽光発電も風力発電も使えない時があります(風力発電は、風が強すぎても使えません)。このような際は代わりに火力発電に頼らざるを得ません。つまり、今のままでは再エネが増えても火力発電所は減らせないという事になります。

このままでは火力発電所は続けられなくなる?

変動型再エネが増えても、今のままでは調整電源としての火力発電所は減らせないことがわかりましたが、実際はその火力発電所も維持するのが困難になります。今の火力電源は、例えれば毎日働きお給料を貰う会社員です。しかし再エネが増えると、その会社員(火力発電所)の出番はどんどん減り、最後には「月1回くらいなんだけど、どうしても忙しい時だけ働きに来てね!」というような状態になります(あくまでも例えですが)。「楽で良いじゃないか!」と思うかも知れませんが、この会社員は時給制(副業不可)です。つまり、いつ来るかわからない出番に備えてずっと待機していなければならない上に、給料はほとんど貰えないことになります。皆さんは、こんな会社では働きたくないですよね?同じように、あまり動かない(収益を生まない)火力発電所に投資をする人もいなくなるでしょうから、このままでは火力発電所はどんどん無くなっていくことになります。

慣性力も必要

上記の調整力以外にも、火力発電所には慣性力(1)の確保という役割があります。慣性力とは、電源の急激な変化に対して現在の状況を維持する力です。次の図をご覧頂きたいのですが、何度もお話している通り、電力は需要と供給を一致させる必要があり、綱引きに例えると勝負が拮抗している状態です。

ここで、次の図のように電源の1つにトラブルが発生すると、慣性力を持つ電源は他の選手が力を入れたり補欠の選手が参加(調整力のことです)するまでしばし耐えます。しかし、慣性力を持たない太陽光や風力のような電源は、諦めて離脱してしまいます(自分自身が故障しないためです)。

そして、3番目の図のように慣性力を持たない電源が大半を占める場合、同じように電源の1つにトラブルが発生すると、次々に電源が離脱し残りの慣性力を持つ電源だけで耐えられなくなり、ブラックアウトが発生する可能性があります。

このように既存の火力電源の果たす役目を大きく、安易に再エネに置き換えることはできない状況です。なお、火力発電外にも水力や原子力発電所も慣性力を持っています。

対応策

それでは、ここまで示した問題に対してどのような解決方法があるのでしょうか。

容量市場・需給調整市場の創設

容量市場は「供給力(発電することができる能力)」を、需給調整市場とは「調整力(短時間で需給を調整できる能力)」を売買する市場です(2)。容量市場では、安定的な電力供給ができる電源に対してオークション形式で費用が支払われます(3)。需給調整市場では、需要と供給にズレが生じた際の穴埋めとして「いつでも発電(調整)できる状態を保つことができる電源」に対してオークション形式で費用が支払われるものです(4)。容量市場との大きな違いの1つは、需給調整市場に応札する電源は余力が無ければいけないという点です(例えば、常時フルMAXで発電している電源は、いざ電気が足りない際にそれ以上電力を供給できないので対象外となります)。

このように、供給力や調整力を持つ電源に対して費用を支払うことで、投資を促進し電源が無くなることを防ぐのが目的です。上の「1か月に1度だけど、忙しい時だけ来てね」と言われている会社員に対して、働く・働かないに関わらず一定のお給料をあげて退職を防ぐようなものです。

脱炭素の調整力・慣性力の確保

調エネの記事でご紹介した通り、余った再エネの電源を使い水素を発生させることが出来ます。水素そのものはCO2を出しませんし、水素を作る際に使った電気も再エネ由来であればカーボンフリー水素になります。この水素を貯めておき、電力が足りない時に発電を行えば脱炭素の調整力が確保できることになります。また、再エネ電源である水力・バイオマス発電は一般的に慣性力をもっているため、これらの電源を出来る限り普及させる手もあります。

その他

慣性力の確保を目的に、本来慣性力もたない太陽光や風力発電に「疑似慣性力」を持たせる研究が進んでいます(1)。このような機能が確立すれば、電源トラブル発生時にブラックアウトが発生するリスクが低くなります。

まとめ

脱炭素社会の実現に向けてCO2を排出する火力発電が問題視されていますが、調整力・慣性力の提供など電気の安定供給のために大きな貢献をしている電源でもあります。また、再エネ電源の増加に伴い火力発電の稼働率が低下するため投資意欲が失せ、安定供給に必要な火力発電所が無くなる恐れもあり、容量市場・需給調整市場が整備されました。今後は、これまでの火力発電の貢献に感謝しつつ、水素等による調整力の脱炭素化や慣性力を持った再エネ電源の普及・疑似慣性力の技術開発促進等が求められます。

参考リンク・資料

  1. 030_01_00.pdf (meti.go.jp) ※「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた需要側の取組」p.101、p.99
  2. 容量市場とは|容量市場の仕組み|かいせつ容量市場スペシャルサイト (occto.or.jp)
  3. 容量市場|新しいエネルギービジネスへの挑戦|事業概要|関西電力 (kepco.co.jp)
  4. jukyu_shijyo_11_04_02_02.pdf (occto.or.jp)「需給調整市場について」

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