皆さん、こんにちは。
今回の記事では、FIT(固定価格買取制度)について解説したいと思います。再生可能エネルギーを語るうえで避けて通れない制度がFITですが、どのようなものなのでしょうか。また、その目的や今後についても、出来るだけわかりやすく解説したいと思います。
FITについて
FITの目的は?
FIT(フィット)は「Feed-in-tariff(フィード・イン・タリフ)」の略で、日本語にすると「固定価格買取制度」となります。その目的は再生可能エネルギーの普及拡大です。再エネの記事でも書きましたが、再エネは既存の火力発電等に比べて導入費用(建設費用)が高いため、出来上がる電力の価格も高くなってしまいます。この導入費用の高さの原因の1つが、成熟していない市場にあります。つまり、「再エネを使う人が少ないから開発も進まず、量産効果も得にくい(安くなりにくい)」ということです。しかしながら、CO2の排出を抑えつつ海外への燃料費の流出も防ぐ再エネの普及は大変意義深いことであり、なんとか市場の成熟・コストダウンを図るために導入されたのが、このFITです。
FITの概要
FITでは、再生可能エネルギー発電を設置する事業者・個人が増えるように、再エネ電力を一定期間・市場より高い一定価格で電力会社が買い取ることになっています。これにより、事業性が確保しやすくなり再エネの導入量が拡大します。また、本来であれば発電した電力の売り先は自分で探さないといけないのですが、電力会社(東京電力パワーグリッドのような送配電事業者)が買い取ってくれる仕組みになっています。しかしこのままでは、市場価格より高い値段で買い取った電力会社が損をすることになります。そこで、FIT買取価格と一般的な電力の価格差を、国民が少しずつ負担するようになっています。「そんな費用を払った覚えがない」という方もいるかも知れませんが、ご自宅の電気の明細を確認すると「再エネ発電賦課金」という項目があると思います。これがFITでかかった費用の負担分で、2021年5月時点では1kWhあたり3.36円を支払っています。電力料金がだいたい20~30円/kWhであることを考えると、結構高いですね(1割以上です)。
FITの価格
FITの買取価格ですが、先ほど述べたように一般的な市場価格より高くなっています。以下の表をご覧ください(資源エネルギー庁資料の抜粋)。電源・年度ごとに買取価格は異なりますが、電力卸売市場の価格(2021/4/11のシステムプライス24時間平均は約5円/kWhでした)と比較すると何れも高くなっています。また、太陽光や風力は買取価格が徐々に下がっている様子がわかると思います。例えば、住宅用太陽光(10kW未満)はFIT開始当初の2012年は42円/kWhでしたが、2021年度現在は19円/kWhまで下がっています。価格の詳細は、経済産業のページでご確認ください。
FITの効果
FITの導入により再エネ発電を行う事業者・個人が増え、導入量が増加しました。これにより、以下グラフ※1で示す通り再エネの発電量が増加しました。特に、太陽光発電の効果は顕著です。これにより、以前の記事でも記載した通り日本は世界第3位の太陽光導入国となりました。
導入量が増加したことにより、導入費用、ひいては発電単価が低下しました。導入量の増加が顕著である太陽光発電については、2023年には10円/kWhを下回る見込みです。一方で、水力・地熱・バイオマスはあまり価格が低下していないようです。
FITの問題点
再エネ導入量の増加とコストの低下に大きく寄与したFITですが、少なからず課題も存在します。その大きな1つが、国民負担の増大です。先日のニュース(3)では、再エネ賦課金の増加により平均モデルでの負担額が初めて年間1万円を超えた事が話題になりました。以下の図で示す通り、2020年度は買取価格総額で3.8兆円、賦課金総額(国民負担)が2.4兆円となる見込みで、この数字は2030年度まで増加する絵になっています。実際、業務用太陽光のFITが開始したのが2012年度であり買取期間が20年間であることを考えると、少なくとも2032年度までは国民負担が増加するのは間違いないでしょう。それ以降は、初期の高いFIT価格の買取が終了することから、国民負担が減少することも期待できると思います(今後の買取価格の推移や件数にもよりますが)。このことから、再エネ電源の競争力強化と早期の自立が求められています。
FITの今後は?~FIPについて~
先ほど述べたFITの課題解決の一環として、FITを新たな制度であるFIP(フィップ)に移行することが決まっております。FIPは、「Feed-in-Premium(フィード・イン・プレミアム)」の略ですが、再エネ電源を固定価格で買い取るFITに対し、再エネ電源に「通常の市場価格にプレミアムを加えて有利な価格で売電できるようにする」という制度です。そのプレミアムの付け方には、いくつか選択肢(4)があります(下図をご覧ください)。一番左の「完全変動型プレミアム」ですが、これは市場価格に対してプレミアム価格を変動させることで、買取単価を一定にするものです。結局買取価格が一定になるので、ほとんどFITと同じですね。対して、一番右の「全期間固定型プレミアム」は、プレミアム価格を常に一定にするものです。よって、買取価格が市場価格に連動して変わりますので、再エネ発電の事業性が予測しにくくなります。一方で、国民負担は一定額となるので予測がつきやすくなります。そして、現在検討されているのが、変動型と固定型の折衷案である真ん中の制度です。図だと少しわかりにくいですが、市場価格によってプレミアム価格を一定期間ごとに変動させていく制度です。市場価格が安い期間には高いプレミアム、市場価格が高い期間には安いプレミアムを設定するので、全期間固定型よりも収益が安定します。
それでは、このFIPにより期待される効果はどのようなものでしょうか?一番大きなものは、「需要ピーク時(市場価格が高い時)に供給量を増やすインセンティブが発生することです。現在のFITでは買取価格が一定であるため、とにかく供給量(発電量)を増やすことが収益に繋がりますが、FIPでは「買取価格=市場価格+プレミアム(期間固定)」となるので、市場価格が高い時に発電することで収益を増やすことができます。実際に、現在のFITでは電力需要の少ない昼間に太陽光の発電量が増加し、市場価格が0円になることも珍しくありません(つまり、電気が要らない時間に電気を供給しているということです)。電力需要のピークは概ね夕方に発生し、市場価格もその時間に高くなる傾向がありますので(需要が多いと価格が高くなるのが市場原理です)、太陽光パネルを西側に向けて夕方の発電量を増やしたり、蓄電池を併設して市場価格の高い時間帯に供給するインセンティブが働くようになります。今後、再エネ発電事業者は、単に発電量を稼ぐだけでなく、市場価格を意識した発電を心がけることで収益を増すことができます(当サイトでJEPXの価格予測を行う理由の1つも、再エネ事業支援です)。FIPは2022年度より開始予定ですが、電力市場価格と連動した支援を行うことで、これまでと同様に再エネ電源の普及拡大を目指しつつ自立を促していくことになります。
まとめ
再エネの普及拡大を目的としたFIT(固定価格買取)制度の導入により、国内の再エネ発電の導入量が増加しました(特に太陽光の増加が顕著です)。また、太陽光・風力発電については発電コストが大きく低下しました。一方で、国民負担の増加が課題となっております。そこで、再エネ電源の自立を促すために、これまでのFITに代わり買取価格が市場価格連動となるFIP制度が2022年度に導入されることが決まっております(制度の詳細は検討中です)。今後、再エネ発電事業者は、単に発電量を稼ぐだけでなく、市場価格を意識した発電を心がけることで収益を増すことができます。
参考リンク・資料
- 集計結果又は推計結果(総合エネルギー統計)|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)(時系列表)
- 061_01_00.pdf (meti.go.jp)(国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案)
- 2021年度の再エネ賦課金は3.36円に増加、買取総額は前年度並みに:法制度・規制 – スマートジャパン (itmedia.co.jp)
- 001_008.pdf (meti.go.jp)(資源エネルギー庁 論点1.「電源の特性に応じた制度構築」)
- 資源別 | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)
- 2019年度の自然エネルギーの割合 | ISEP 環境エネルギー政策研究所
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