既存電力系統の有効利用|ノンファーム接続とは?|混雑状況の確認方法

エネルギー
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みなさん、こんにちは。

これまで、再エネの大量普及にはコスト・調整力・系統枠(送電線)の制限などの問題がある点を説明してきました。コストの問題については、以前ご紹介したFIT制度の導入等により対策が図られてきましたが、他の問題についてはどうしょうか?今回の記事では、系統枠(送電線)対応の1つとして検討されている「ノンファーム接続」について解説してみたいと思います。※系統枠の問題については、本記事をご参照ください。

ノンファーム接続とは?

それでは、ノンファーム接続とは何でしょうか?先ず言葉の意味ですが、ノンファームの「ファーム(firm)」とは「安定した、かたい、不動の」などの意味があります。そして、実はノンファームに対して「ファーム接続」というものもあります。以下の図をご覧ください。

図で示す通り、ファーム接続では電源毎に送電線の容量が常時確保されています。これは道路に例えると、使おうが使うまいが1車線常時確保されているような状態です。発電者側から考えると、好きな時にいつでも発電できる(道路を使える)という点でメリットがありますが、太陽光・風力のように天候により運転状況が左右される発電の場合、送電線が実際には使用されず、ただ占有されている状態が増えて大変非効率です。

一方でノンファーム接続ですが、これは送電線に空きがある際は電気を流しても良いよ、という接続方法です。道路に例えると、空いている際は自由に通れますが、混雑した際は通行禁止になるイメージです。上図は全ての電源がノンファーム接続となる仮定で描いていますが、実際はファーム接続(ノンファーム制度ができる以前に接続していたもの)とノンファーム接続が混在することになります。

それでは、「送電線が混雑する」というのはどういうことでしょうか。実は、送電線はその太さ等に応じて流せる電気の量が決まっております。その量を超えると、送電線からの発熱が規定値を超え安全運用に支障をきたす恐れがあります(送電線にも僅かに抵抗があるため、電流を流すと熱が発生するためです)。

元々、国内の発電所はファーム接続となっており、発電所が発電したい際にはいつでも送電線は受け入れ可能になっていました(需給・バンク逆潮等の制約はありますが、送電線としては受け入れ可能)。しかしながら、昨今のFIT制度等の影響により再エネ電源が急増してきたため、「送電線の予約制度(ファーム接続)」に限界がやってきました。そこで考えられたのが、ノンファーム接続です。

現在、既に国内にはファーム接続ができない地域がたくさんあります。このことから、将来更に再エネ電源を増やすために系統増強(車線を増やす工事のようなものです)と両輪で既存の系統枠の活用としてノンファーム接続が検討されています。

系統枠の問題やノンファーム接続については、京都大学の安田先生が著書の「世界の再生可能エネルギーと電力システム 系統連系編」で大変わかりやすく解説されています。当該著書のシリーズである「経済・政策編」「電力システム編」もおススメです。

ノンファーム接続の対象

それでは、ノンファーム接続についてもう少し詳細を解説していきたいと思います。先ず、電力系統は大きく分けると「基幹系統」「ローカル系統」「配電系統」の3つになりますが、ノンファーム接続は空き容量が無い「基幹系統」に適応されることになっています。それ以外の「ローカル系統」と「配電系統」についてはファーム接続のみとなっております(ローカル系統について、今後の適応が議論されているところです)。

このことから、例えば配電系統に太陽光発電設備を接続する場合は、上記の配電系統(一般道路)とローカル系統(その他の高速道路)は予約制の専用道路となり、その上の基幹系統はノンファーム接続(混雑時以外は走れる)という事になります。

ノンファーム接続はいつから出来るの?

このノンファーム接続ですが、実はまだ一部のテスト地区を除いて実施されておらず、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と一般送配電事業者などでシステム開発が行われており、2023年度中の開発完了を目指しています。このことから、実際にノンファーム接続が可能になるのは2024年度からですが、現在2022年度まで前倒しすべく検討(2)を行っています。

ノンファーム接続ではどのくらい電力を流せるの?|混雑状況の確認方法

では、実際にノンファーム接続を行った場合、どのくらいの頻度で回線の混雑が発生するのでしょうか。これは発電事業者にとっては大事な問題で、せっかく太陽光や風力などの発電所を建設しても、混雑状況が多い場合は発電した電力が売れずに収益性が低下してしまいます。この混雑状況を調べる方法が電力広域的運営推進機関(OCCTO)のホームページに公開(3)されていますので、順を追って説明致します。

ノンファーム接続が適応されるエリアか否かの確認

ノンファーム接続が適応されるエリアか否かの確認は、東京電力パワーグリッド等のような一般送配電事業者のホームページに公開されています。以下をご確認ください。各社フォーマットが異なりますが、「系統空容量マップ」とか「系統図」を見ると、ノンファーム接続が適応される系統が色で示されています(親切な会社では、マップで示されています)。

北海道電力ネットワークhttps://www.hepco.co.jp/network/con_service/public_document/bid_info.html
東北電力ネットワークhttps://nw.tohoku-epco.co.jp/consignment/system/announcement/index.html
東京電力パワーグリッドhttps://www.tepco.co.jp/pg/consignment/system/こちらで直接確認可
中部電力パワーグリッド:※閲覧するには会員登録が必要なようですhttps://powergrid.chuden.co.jp/takuso_service/hatsuden_kouri/takuso_kyokyu/rule/
北陸電力送配電http://www.rikuden.co.jp/nw_notification/U_154seiyaku.htmlこちらで直接確認可
関西電力送配電:※本記事記載時点(2021/6/26)ではノンファーム接続適応エリア無しとのことhttps://www.kansai-td.co.jp/consignment/disclosure/distribution-equipment/index.html
中国電力ネットワークhttps://www.energia.co.jp/nw/service/retailer/keitou/access/
四国電力送配電https://www.yonden.co.jp/nw/line_access/index.html
九州電力送配電https://www.kyuden.co.jp/td_service_wheeling_rule-document_disclosureこちらで直接確認できます
沖縄電力http://www.okiden.co.jp/business-support/service/rule/plan/index.html

①設備容量の確認

ノンファーム接続の適応状況を確認したら、次は設備容量を調べてみましょう。設備容量とは送電線に流して良い電気の量を示しています。道路に例えると、車線数にあたります。この設備容量も一般送配電事業者のホームページに公開されています。上記のリンクより確認対象エリアの一般送配電事業ホームページに飛び、「系統容量一覧表」「送電線の空容量」「空き容量マップ」等のファイルを探してください。その中に、「運用容量値」という項目がありますので、混雑状況を確認したい系統の数値を確認してください。

電力広域的運営推進機関(OCCTO)のホームページに公開されている情報では、北海道電力ネットワークの事例が解説されています(ページ番号36参照)。なお、北海道電力ネットワークの「運用容量値」はこちらに公開されています(無断転載不可にてリンクのみ)。上記リンクに示される表の左から6番目の項目に「運用容量値」がありますので、左から2番目の「送電線名」と照らして、対象送電線の運用容量値を確認してください(上図を参考にしてください)。例えば、「双葉幹線」の状況を調べたいのであれば、送電線No.30の運用容量値「217(MW)」を抑えてください。

②潮流実績の確認

それでは次に、潮流実績を調べてみましょう。潮流実績とは、送電線に実際に流れている電気の量を示しており、車に例えると実際に道路を走行している車の台数にあたります。この潮流実績ですが、各一般送配電事業者にて1時間毎の過去実績を公開しています。①と同じく、電力広域的運営推進機関(OCCTO)のホームページに公開されている情報では、北海道電力ネットワークの事例が解説されています(ページ番号37参照)。なお、北海道電力ネットワークの「潮流実績」はこちらに公開されています(左記リンクは2020年度実績ですが、他の年度のものはこちらの「地点別需要・系統潮流実績」をご確認ください)。

対象ファイルを開くと、各送電線の実潮流とタイムスタンプが記載されています(上図を参考にしてください)。送電線名やNo.で、対象となる送電線の列を探してください。

上記①・②の重ね合わせ

それではいよいよ混雑状況を確認しましょう。先ほど調べた①設備容量から②潮流実績を引くと、系統の余力がわかります(車線数ー実際に走っている車の台数=余力という訳です)。先ずExcelを開き、下記の通り①で調べた運用容量と②で調べた潮流実績(と日時)を貼り付けてください。※ここでは説明の都合上、運用容量値を120MWという架空の値にしています

次に、日時・運用容量値・潮流実績の数値が記載されたセル(365日×24時間分)を選択し、Excelの「データ」→「並び替え」→で降順に並び替えてください(最優先されるキーを「列D」もしくは「実潮流」、並び替えのキーを「セルの値」、順序を「大きい順」もしくは「降順」を選択し、最後に「OK」クリックすれば良いです)。

そして運用容量値と実潮流の線グラフを作成すると以下のような形になります。ここで、実潮流が運用容量値を超えた部分(下図の黄色ベタ塗り部分)が混雑状況を示しています。そして、運用容量値より実潮流が下回る部分(下図の緑色ベタ塗り部分)は系統余力となります。これで混雑状況と系統余力がわかるため、太陽光や風力発電を設置した際の系統利用可能状況がわかります。下記の例であれば混雑状況になるのは約500時間程度なので、9割がた発電が可能であることがわかります。但し、接続する発電システムの容量が大きい場合、系統余力が足りなく十分に発電できない事もあり得るので注意が必要です(例えば、系統余力が1MWしかない場合、10MWの発電機は最大値で発電できません)。また、本試算はあくまでも実績に基づいた混雑状況の評価なので、実際の状況と異なる可能性もあります(昨年度は混雑していなくても、次年度は発電所が増えて混雑するかも知れません)。

まとめ

再エネの普及拡大に伴い、日本の各地で送電線の容量が不足する事例が発生し始めています。このような状況を改善するため、既存送電線を有効活用するノンファーム接続が検討されており、2024年度から開始予定です。しかし、系統の混雑状況によっては太陽光・風力発電等を設置しても十分な事業性が得られない可能性があるため、本記事で紹介するような混雑状況の見極めが重要になります。

参考リンク・資料

  1. 電力ネットワークの次世代化 基幹系統・ローカル系統等における接続・利用の高度化
  2. 電力ネットワークの次世代化に向けた中間とりまとめ(案)p.27(資源エネルギー庁)
  3. 系統の接続ルールについて(電力広域的運営推進機関)

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